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東京高等裁判所 昭和54年(行コ)90号 判決 1980年9月18日

控訴人(原告) 日本ペンタ株式会社

被控訴人(被告) 横須賀税務署長

訴訟代理人 都築弘 古俣与喜男 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し横須間特第三三号をもつて昭和五一年五月二八日付でした物品税決定処分(税額一〇五八万三四〇〇円)及び横須間特第三四号をもつて同日付でした物品税決定処分(税額五九四万円)は、いずれもこれを取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、主張として、控訴人において、

「一 物品税法七条一項は同法三条二項の例外規定であつて、第二種の物品について本来納税義務を負うのは製造者である。租税法律主義のもとでは、このような例外規定は厳格に解釈されねばならない。二 物品税法七条一項は、「材料若しくは原料のうち主要なもの」と規定しているのであつて、「主要」の語義は、元来扇のかなめを意味し、扇のかなめが一つしかない如く、「主要なもの」とは一種に限られるべきである。のみならず、「のうち主要なもの」という表現が、比較の問題を伴うものであつて、第二種の物品の性状、機能、用途等について重要な特性を与える原材料のうち「主」たる一種に限定するものであることは、文理上からも極めて明白である。三 物品税法七条一項において、資金、労務については、「全部若しくは大部分」と規定したのに対し、原材料については、「主要なもの」と規定したのは、その単純な量的評価をもつては足りず、第二種の物品の性状、機能、用途等からみて、これに重要な特性を与えるという質的評価によつてかなめとなるものを判断しなければならないとしたのである。四 要するに、物品税法七条一項の原材料の供給によるみなし製造の場合は、第一義的には、第二種の物品の性状、機能、用途等について、重要な特性を与える原材料を供給して製造を委託したか否かが問題となるのであるが、このような特性を比較しただけでは、換言すれば、質的評価による比較だけでは、そのうちいずれがかなめとなる最も重要な特性を与えるもの、即ち「主要なもの」であるかを決し得ない場合がある。このようなときは、第二義的に、価格または数量等の量的評価によつて、そのうちいずれがかなめとなる重要な特性を与える主要なものであるかを決しなければならない。本件は、大型モーターボートにおける舶用エンジンと艇体とであるから、まさにこの場合にあたるのである。」と述べ、被控訴人において、「一 物品税法七条一項に規定する『第二種の物品の製造に必要な材料若しくは原料のうち主要なもの』とは、第一義的には、製造委託にかかる第二種の物品の性状、機能、用途等について重要な特性を与える原材料をいうものと解すべく、また、この意味の原材料が数種類存在する場合においても、同規定の適用要件としての主要原材料とは、それらのうち最も重要なもの一種類に限定されなければならないというものではない。二 なんごく丸の舶用エンジンの価格が四四一万円であることは認める。」と述べ、証拠として、控訴人において、甲第九ないし第一一号証を提出し、乙第七号証の成立を認め、被控訴人において、乙第七号証を提出し、甲第九ないし第一一号証の成立をいずれも認めると述べたほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の請求は容認し得ないと判断するものであるが、その理由は、次に附加、訂正、削除するほかは、原判決の理由説示と同一(ただし、原判決二二枚目裏八行目中「委託シ……(タ)」を「委託……(スル)」に、同一〇行目中「委託者」を「委託者……」に、同二三枚目表四行目中「委託し……(た)」を「委託……(する)」に、「をした者」を「をした者……」に、同五行目中「委託を受けた者」を「委託……を受けた者……」に、同二四枚目裏四行目及び七行目中「超える」を「占める」に改める。)であるから、これをここに引用する。

1  原判決二四枚目裏八行目中「供給される原材料」から同二五枚目表九行目までを次のとおり訂正する。

委託者が委任にあたつて供給する原材料については、その価格や数量をみなし製造者の指標とすることは、材質の良否や価格の変動という日常的な不確定要因と連動しやすく、徴税事務の画一性や敏速性の要請に適さないうらみがあるのに対し、原材料が物品の性状、機能、用途等について重要な特性を付与するものであるときは、かような原材料の質的機能に鑑み、これを供給して製造を委託した者自らが当該物品を製造したと同視しても不合理ではなく、かつそのような指標によることの方が、前記徴税事務の要請によりよくこたえるものであるとしたからに外ならないと解せられる。

2  原判決二五枚目裏末行中「なお、」から同二六枚目裏一〇行目までを次のとおり訂正する。

ところで、控訴人は、物品税法七条一項は同法三条二項の例外規定であり、租税法律主義のもとでは、このような例外規定は厳格に解釈されるべき旨及び同法七条一項に規定する「主要なもの」とは、重要な特性を与える原材料が数種あるときは、そのうちいずれが「主」であるかを比較衡量したうえ、かなめとなる一種に限られるべきである旨主張する。

しかしながら、まず、物品税法七条一項が、同項に規定する特殊な場合には同項にいう委託者等を製造者とみなすことによりこれに納税義務を課することとし、本来の製造者たる同項にいう受託者等を納税義務者から除外する意味において同法三条二項に対し特例を定めた規定であること及び同法が憲法に定めた租税法律主義のもとに制定された法律であることを考慮しても、右規定の解釈にあたり通常の解釈理論と異なる厳格解釈が特段に要請されるものではなく、当該法条の用語については、その趣旨や目的との相関のなかで通常の用法に即して解釈すれば足りるものといわなければならない。

そうして、物品税法七条一項が規定する「主要」とか「主要なもの」とかの文言は、法令以外で用いられる場合も(たとえば、「主要国会議」)、法令で用いられる場合も(たとえば、証券取引法一八九条一項にいう「主要株主」、食糧管理法二条にいう「主要食糧」、その他道路法七条一項、公共用地の取得に関する特別措置法二条等参照)、控訴人主張のように一個のものに限定して用いられるものではなく、「主要なもの」が複数あることを含意するものということができ、このことは、物品税法七条一項に、「……第二種の物品の製造に必要な材料若しくは原料のうち主要なもの」と規定してあるからといつて変わるものではない。蓋し、右の「のうち」として比較衡量の対象とされるのは、右の意味での「主要」でない原材料であることは明らかであるからである。また、同条項において、資金や労務の供給については、「全部又は大部分」として、この種の供給については複数あつても、相互の比較衡量によつて製造者とみなされる者が単一となるよう規定されていることとの権衡を以て控訴人主張の論拠とすることも相当ではない。蓋し、先にも触れたように、原材料の場合は、資金や労務の場合とは異り、量的指標ではなく質的指標を以てすることを是としたのであるから、その単純な権衡をいうのは早計といわなければならない。ただ、委託者の供給にかかる原材料が物品に重要な特性を与えるものであるかどうかの認定が質的比較衡量のみでは困難な場合においては、その原材料の価格又は数量が当該物品の原材料の総価格又は総数量の少なくとも過半数を占めるか否かとの量的比較によつて、その原材料が「主要なもの」に該当するか否かを決することも考えられようが、本件はこのような場合ではない。

3  原判決二九枚目表八行目中「そうすると、」の下に「前説示のところから明らかなように、」を加え、同裏一行目から同四行目中「ところであるから、」までを削る。

二  よつて、控訴人の本訴請求をいずれも理由がないとして棄却した原判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 林信一 高野耕一 石井健吾)

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